
【評価/感想】 『JUDGE EYES(ジャッジアイズ)』レビュー 「キムタクが如く」は「龍が如く」を超えたか?
JUDGE EYES:死神の遺言
- 史上最高に美しい神室町
- 八神隆之はキムタクそのもの
- 便利なミニマップ
- 引き込まれる物語
- わかりやすい展開
- 時にわかりやすすぎる展開
- 物語はかなりスロースタート
- 生まれてくるべきではなかった調査アクション
- 引き延ばし的な戦闘
- 狭い空間で混乱するカメラ
タイトル <「キムタクが如く」は「龍が如く」を超えたか?> について説明すると、ここでいう「龍が如く」とはシリーズ最高傑作『龍が如く0 誓いの場所』のことだ。
『JUDGE EYES:死神の遺言』の核となるゲームシステムは「龍が如く」とほとんど同じだが、微妙な差異がある。
『JUDGE EYES:死神の遺言』は実際どうだったのか?
チャプター1のみが配信された「JUDGE EYES 一章まるごと・スペシャル体験版」の感想で、自分は製品版に向けていくつか懸念する点を挙げた。まずは、その不安が当たってしまったか、あるいはみごとに外れたのかを検討していく。
体験版の感想に書いた不安や不満は以下の通り。
- 調査アクションの出来にばらつきがある
- 長いプレイ時間の中でバトルに飽きてしまうのではないか
- 捻りのないコメディ展開が続くのではないか
- 登場人物の台詞が説明過剰ではないか
製品版をクリアして確かめた結果はこうだ。
- 調査アクションは出来にばらつきがあるどころではなく、最悪
- バトルにはすっかり飽きてしまった
- 序盤はシリーズで見慣れたいつもの抗争劇だが、中盤から一気に面白くなる
- 序盤は説明台詞が多いが、中盤以降は減る
生まれるべきではなかった調査アクション
尾行!
盗撮!
侵入!
追跡!
探索!
変装!
集めた証拠で犯人を追い詰めろ!
『JUDGE EYES』のTVCMは高らかに新システムを謳っているが、要するにこれはアクションアドベンチャーにありがちなステルスミッション、撮影ミッション、ピッキング、チェイスに加えてドローン操作、「逆転裁判」で言うところの「つきつける」といったもののことだ。
体験版をプレイした時は「尾行とドローンつまんない、ピッキングどうでもいい、チェイスはシチュエーション次第かなあ」くらいの感覚で「調査アクションの出来にムラがある」と評した。まさか、目玉となる新システムが全部つまらないなんてはずはないと思っていたのだが、そのまさかだった。
難易度が上がる終盤は余計つまらなくなるのだから驚きである。チャプター2ラストのチェイスが比較的良かったくらいで、他はサーチモードも含めて全部ダメ。
なかでも一番つまらないのが尾行だ。これほど退屈なステルスシークエンスも珍しい。苦痛ですらある。「ターゲットを見失った!!」も、予測不可能なターゲットの動きも、わざとらしいターゲットの警戒動作も、隠れられるのかどうか近づいてみるまでわからないオブジェクトも、長すぎるミッション時間もまったく意味がわからない。
たくさんのつまらない新システムのかわりに「キャバつく」や「カラオケ」は『JUDGE EYES』に存在しない。ストーリー的必然と出演者の所属事務所的必然があるにせよ、がっかりだ。
さすがに飽きるバトル
10年以上「龍が如く」に触れてきた身としては、技とコンボがカンフー化し動きもスタイリッシュになったところで飽きるものは飽きる。
中盤からバトルがダルくなる現象は「如く」シリーズあるあるだ。毎回必ずどこかで戦闘をダルく感じだすので『JUDGE EYES』固有の問題ではない。 プレイタイムを引き延ばすかのように延々モブのチンピラを処理させるあの演出さえ抑えれば飽きにくくなるかもしれないのに。
あるいはいつもより控えめな今作のヒートアクションがもっと残酷で面白ければ雑魚戦のモチベーションも上がるし京浜同盟から逃げまわることもなかったのだが。
平坦な序盤からぶちあがる中盤
序盤はゴールデンタイムのしょぼいドラマを模倣しているようにしか見えなかった。もちろんドラマっぽいのは意図した通りなのだろうが、つまらないドラマの流し見するような部分まで実際にプレイしたくはなかった、というのが率直な感想。チャプター4くらいまで平坦な展開が続くので、なかなか先に期待を持つのが難しかった。
チャプター5からが本番だ。物語にエンジンがかかり、一気に巨大な陰謀へと接近する。
「桐生一馬のような戦闘能力を持たない弁護士が主人公のリーガルサスペンス」と思いきや、八神が実は桐生並に好戦的なのでリーガルサスペンスの部分が背景に追いやられてしまうのは気に入らないが、ことの全貌が見えてくるまでは興奮と驚きの連続だ。
ただし、クライマックスを迎える前に物語の構造が完全に露出して犯人や黒幕がわかってからは展開に捻りもなく、最後の数章が消化試合になるのは残念。
それでも説明は多すぎる
『JUDGE EYES』はSFでもファンタジーでもなく我々が良く知る現代社会を舞台としているにも関わらず、きわめて丁寧に舞台設定を説明してくれる。重要なことは何度でも説明して強調するし、何か展開があったら今何が起こったのかを複数キャラクターの口から確認させる。「龍が如く」をプレイしたことがない人にとってありがたいフォローではある。
もっとも『JUDGE EYES』は過去作よりグラフィックが強化され表現力も格段に上がっているのだから、長台詞以外で状況を見せる方法もあるべきだ。
説明が多いのはストーリーだけではない。新しいシステムやミニゲームが導入されるときは必ず、最初の1回は「夫の浮気調査」とか「競馬で作った借金の取り立て」とか「ケーキ盗み食い裁判」とか「離婚調停の護衛」とか、コミカルでわかりやすいチュートリアル的なクエストをこなすことになる。こうした牧歌的な事件が実は後に本筋に絡んでくる、ということもほぼない。ただどうでもいいサブクエストがシステム解説のためにメインストーリーに突っ込まれてるだけだ。
ストーリー説明とシステム説明とキャラクター紹介とが序盤にギチギチに詰まっているおかげで、チャプター5までは「ゲームを遊んでいる」というより単に「設定の説明を受けている」という感覚だった。キャラクターは見た目通りの性格だし、もう神室町のことも東城会のことも知ってるって!特に新システムの調査アクションがことごとくスベっているおかげで、つまらないミニゲームを強制され続けるのは勘弁して欲しかった。
キムタクが如く
キムタクのファンというわけではない自分の目から見ても、主人公の八神隆之は本当にキムタクそのもの。有名人をモデルにしたゲームキャラクターの中でもかなりの再現度ではないだろうか。
「悪人を追い詰めたらその場で事情を何もかも喋ってくれる(喋らないということは実はそれほど追い詰められていない)」「たいていのトラブルは説教すれば美談で収まる」…そもそも「龍が如く」自体に邦ドラ感があるので、「龍が如く」を更にドラマに寄せた『JUDGE EYES』は完全にキムタクのテレビドラマだ。
ドラマの世界のキムタクがリアルな無料案内所やらコンビニやら走行中の車の上やらをバタバタ走り回るのだから、操作自体は桐生ちゃんよりも楽しいかもしれない。
ドラマに思い入れのある人にとっては感動または爆笑する光景も多いはずだ。
『JUDGE EYES:死神の遺言』レビュー総評
『JUDGE EYES』は『龍が如く0』を超えなかった。脚本はどちらも同じ古田剛志だが、物語、キャラクター、演出、完成度において『龍が如く0』の方が上だ。
『龍が如く 0』は第一章と第二章で一気にプレイヤーを引き込み、第三章と第四章でそれ以上に魅力的な別の物語を展開する。それに比べて、『JUDGE EYES』のペース配分はいかにもぎこちない。堂島組ほどユニークではない松金組とマイルドな暴力表現でつばぜり合いを続けること四章、ようやく調子が出だすというのは悠長すぎる。
『龍が如く0』には複雑で魅力的なパーソナリティを持ったキャラクターがたくさん登場する。堂島組の若頭補佐たち、佐川司、マコト、何より真島吾朗。『JUDGE EYES』にもこうしたキャラクターがいないわけではない。ただ結局興味深いと思えるのは八神と羽村くらいで、もっと良いキャラクターになれたはずなのに描写不足で印象に残らない何人かがとても惜しい。
「キムタクドラマの再現」という、一部のユーザーにとって何よりも重要な点ではもちろん『JUDGE EYES』が上だ。というか世界中のどのゲームよりも上だ。このゲームのオリジナリティと価値はそこにある。
毎回奇妙な新システムの導入に労を払う龍が如くスタジオだが、今回は調査アクションに足を引っ張られた。「龍が如く」的熱血ストーリーとキムタクの相性の良さは間違いないものの、『JUDGE EYES』のゲームシステムをここまで「龍が如く」に寄せる必要は感じない。
『JUDGE EYES』をプレイしながら、ちょこっとパロディするくらいじゃなくてしっかり「逆転裁判」のシステムを真似してくれないかな、と思ってしまった。
セガ、『JUDGE EYES』の販売停止
レビューに書いた通り、羽村はこのゲームに登場する数少ない魅力的なキャラクターだ。羽村が別の俳優に差し替えられるようなことになればガッカリだ。
【4月16日更新】
残念ながら、羽村のモデルは差し替えられた。

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