【評価/感想】『キングダム ハーツIII』レビュー 平成最強のムービーゲー【KH3】
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キングダムハーツIII
- 鮮やかなディズニーワールド
- 大量のミニゲーム
- ゴージャスな戦闘
- ドナルドとグーフィー
- レイジフォーム
- 動きのないムービーの数々
- クライマックス以外では魅力のない真XIII機関
- 手応えのないグミシップ
- 駆け足気味な伏線回収
『キングダムハーツIII』のプレイ体験は人によって大きく異なる。
- 予備知識なしにKH3で初めてシリーズに触れる人
- KH1とKH2をプレイしている人
- シリーズに何百時間も費やし、10年以上待ちに待った人
それぞれの立場でクリア後の感想も変わることは間違いない。連続したストーリーを持つシリーズ作品なら当然だ。
筆者は当時『キングダムハーツ』と『キングダム ハーツII』のみをプレイし、2年前に『キングダムハーツ HD 2.8』(OPは3よりこっちのほうが良い!)と『キングダムハーツ HD 1.5+2.5 リミックス』をプレイしている。なのでシリーズの基礎知識はあるが、残念ながら17年間このゲームと共に育ってきたプレイヤーの気持ちはわからない。
そんな人間から見て『キングダムハーツIII』のストーリーの良し悪しについては、正直何とも言い難い。あまりにもゴチャゴチャしていて物語にまとまりがないと感じる一方、長い旅に一区切りがついたという意味では感動的だし、愛すべきキャラクターたちの結末は美しい。
いまどき珍しいほどに大量のカットシーン
『キングダムハーツIII』を起動し下村陽子の音楽で多幸感に包まれながら「NEW GAME」を選択し、おなじみのステータス決定を終えて最初のワールドをしばらく進んだあたりで、あるいは遅くともその次のワールドをクリアしたあたりで多くのゲーマーが気付くことがある。
このゲームはムービーゲーだと。
ムービーゲーとは、ゲームプレイではなくムービー=カットシーンを中心に進行するゲームのことだ。ムービーを見ている間は操作できないのでプレイヤーは画面を眺めるしかやることがなく、流れるムービーに興味を抱けなければ退屈な思いをする。
近年のストーリー重視のAAAタイトルでは全てのカットシーンとゲームプレイをシームレスに接続させて没入感を高めるなどの工夫がなされているが(『ゴッド・オブ・ウォー』)、従来通りのやり方でゴリゴリにムービーを連発するのがスクエニとキングダムハーツの伝統だ。
とはいえ、「ムービーゲー」は必ずしも悪ではない。カットシーンでは開発者の意図した通りのカメラアングルと音楽を使った演出ができる。映画的なゲームがカットシーンを使うのは当たり前のことだ。そもそも、キングダムハーツはディズニー映画の世界を渡り歩くゲームだ。退屈なムービーは問題かもしれないが、それがディズニーなら?
残念なことに、『キングダムハーツIII』では美しいディズニーワールドの再現だけではなく真XIII機関のどうでもいい雑談にもムービーが使われる。一般的なJRPGでは吹き出しにテキストで表示されるような画的に動きがない会話も含めて全部ムービーで表現されるのだ。
真XIII機関の連中はゆったりと間を取って話すので、ディズニーコラボ作品とは思えないほどテンポが悪い(ディズニー関連はテンポが良いぶん、余計際立つ)。しかもそこで話されている内容の多くは既にプレイヤーが知っているか予測可能な情報を再確認しているだけ。たまに新しいネタが出てきてもそれは『キングダムハーツIII』の本筋とは関係がない続編の伏線を張っているに過ぎず、全く面白くない。
つまり、『キングダムハーツIII』には「良いムービー」と「悪いムービー」がある。ゲーム全体で軽く200個を超えるムービーを簡単に分類してみた。
アクションシーン
ボスの登場&退場シーンもここに含まれる。どれだけ迫力あるアクションシーンでも操作可能なバトルのほうがよほど面白いのでこうしたムービーを多用されるとさすがに飽きてくるが、スキップしたくなるほどではない。
コミカルなシーン
光と闇の戦争に巻き込まれても、真XIII機関にワールドをメチャメチャにされても、ディズニーらしいユーモアは健在だ。
『モンスターズ・インク』のブーや『アナと雪の女王』のオラフは期待通りの活躍を見せてくれる。こういうムービーならいくらあっても嫌にならない。
ディズニーワールドを再現するシーン
ディズニーワールドの再現に費やされた努力は、他のムービーのそれを遥かに凌駕している。ひょっとしたらここに力を注ぎすぎたせいで他のムービーに手抜きが多いのかもしれない。
特に「Let It Go」や新規参戦のピクサーワールドは『キングダムハーツIII』をプレイすべき理由の一つだ。
もちろん、ディズニーの魔法はムービーに限らない。生き生きとしたワールド全体が「ディズニー映画に遊びに行く」体験を見事に実現している。
歩きながらグーフィーに解説させれば済むような説明シーン
『キングダムハーツIII』が近年のAAAタイトルの傾向に反する点の一つは、移動中にキャラクターがほとんど会話をしないところだ。
『ウィッチャー3』にしても『Horizon Zero Dawn』にしても『ゴッド・オブ・ウォー』にしても『スパイダーマン』にしても、移動時間のあるゲームは間を埋めるためにしばしば会話や独り言や通信といった形でジョークを言ったり背景説明をしたりする。『キングダムハーツIII』では他のタイトルが操作中に裏で流しておくような台詞までもがムービー化されている。
ワールドの途中やクリア後に真XIII機関が登場するシーン
真XIII機関が思わせぶりだが無意味なことを言う→理解力の高いグーフィーがXIII機関語を翻訳する→ソラ「心の繋がりはお前らなんかに負けない!」
これムービーで何度もやる必要あるか?明らかに演出にも力入ってないし、脚本が整理できていない気がする…。
真XIII機関はゲーム全体を通して出まくるのに台詞が印象に残らないせいで存在感が薄い。最後の最後になって真XIII機関連中がこぞって意味のある会話をしだした時は「最初からこれやっとけばもっとマシだったのに!」と思ってしまった。
総じて言えるのは、「良いムービー」は一つ一つが短め、「悪いムービー」は長め。人間の集中力はそう長くは続かない。プレイヤーにスマホをいじらせないほど魅力的な長いムービーを作るのは簡単なことではないのだ。
手触りの良い戦闘
キングダムハーツにおいてバトルとは、ハートレスではなく常に混乱したカメラワークとの戦いだった。ありがたいことに『キングダムハーツIII』ではこの点が大きく改善されている。
17年かけて磨き上げられた戦闘システムはとにかくなめらかで、あらゆる動きがシームレス。「動かしているだけで楽しい」とはこのこと。
キーブレードのアクションの種類はフォームチェンジまで含めれば途方もない数で、常にバトルを新鮮に感じさせる。何種類か存在する巨大なアトラクションに乗り込んで大暴れする「アトラクションフロー」、「ドナルドメテオ」や「グーフィーボンバー」といったコンビ技、MPを全消費する強力な召喚技「リンク」、バトルにも移動にも使える「アスレチックフロー」。これら大量の技をほぼワンボタンでスムーズに発動できるのはアクションRPGとして洗練されている証拠だ。
バトルの派手さはシリーズ最高だが、操作は複雑ではない。というより、難易度はおそらくシリーズの中でも最も低い。自分はスタンダードモードでレベル上げせずガードせずの脳死〇ボタン連打でバトルに挑んだが、一度もボス戦で負けなかった。代わりに頻繁にピンチからのレイジフォームに陥ったが、これがまた気持ち良い!個人的にはこの簡単さを肯定したい。仮に難易度を高くして敵の動きばかりに目がいき、パレードのようなバトルフィールド全体を楽しめなくなるとしたら勿体ないと思う。
玉石混淆のミニゲーム
バラエティ豊富なのは戦闘だけではない。クラシックキングダム、料理、グミシップ、航海、レース、その他たくさんのミニゲームやワールド固有のギミック。全てが夢中になるほど良く出来ているわけではないが、常に新しいゲームプレイが追加され続けるというのはちょっとした楽しみにはなる。
中でも最大のミニゲームといえばグミシップだが、これは気に入らなかった。グミシップが好きになれない理由はいくつかある。一つ目は、シューティングとして「撃った感」=手応えがあんまりないせいで与えたダメージがわかりにくく、気持ちよくないから。二つ目は、機体操作が『エースコンバット7』よりも難しいから。三つ目は、クラフトが下手だから。
もっとも、筆者はそもそも初代をプレイした小学生の頃からグミシップは嫌いだった。いくつか理由はあるにせよ、嫌いなものは嫌いというだけの話だ。『キングダムハーツIII』のグミシップは、個人的な好き嫌いを抜きに見ればそれほど悪くない。レールに乗って進むのではなく宇宙を自由に飛び回り、ブーストやネビュラーラインを駆使して素早く移動できる。大型ボスとの戦いはワールドとワールドの間の良いアクセントだ。
総評
『キングダムハーツIII』の長きに渡る開発地獄は過剰なカットシーンを生んだが、同時にバトルをピカピカに磨き上げた。思うがままにエリアを支配できる戦闘はカジュアルなアクションRPGの中で傑出している。
ディズニー&ピクサーワールドは細部まで作り込まれたこだわりの出来で、1回ストーリーをクリアしただけでは気付かない部分まで遊び心に溢れている。「グライド」アビリティを獲得した後にお気に入りのワールドを再訪してみることをお勧めする。
とにもかくにもダークシーカー編は完結したが、ソラの物語は終わる気配がない。17年の旅路には付き合えなかったが、次こそはキーブレード使いたちをリアルタイムで追っていきたい。