【評価/感想】『SEKIRO(隻狼)』レビュー フロム・ソフトウェア史上最高の地獄
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SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE
- 細部まで作りこまれた美しい戦国
- 激しく独創的なバトル
- 鉤縄とダッシュの快適な移動
- 忍殺の快感
- あまりにも、あまりにも強いボス(良い点なのかもしれないけど…)
- 激しい戦闘に追いつけないカメラ
まぼろしお蝶の倒し方はわかっている。切りつけて、弾いて、ジャンプで回避して、婆さんが飛び上がったら手裏剣。敵の隙の見逃さないよう近くのポジションを維持し続ける。幻術は柱を使って回避。それだけだ。
それだけのことが何回やっても全然できない。戦闘前に出る「HPと体幹」という説明文には「これが最後のチュートリアルだ」という雰囲気がある。音楽も猛烈に盛り上がる。
こんなに難しいチュートリアルがあるのかという感じだが、ここ10年で一番ハードコアなアクションゲームなのだからそういうこともある。そして何時間もかけてどうにかお蝶に忍殺を決めた時、すべてのストレスから解消され、キャラクターではなく自分自身がこの試練を突破したのだという巨大な充足感がある。
俺は強くなった!次は現代編であのイケメン侍から御子さまを取り戻すぞ!試練は続く。
目次
『SEKIRO』は全てのマゾゲーを過去にする
工夫と学習によって困難を乗り越えるソウルライクゲーム。日本では「死にゲー」とも呼ばれるフロム・ソフトウェアの十八番だが、彼らの新作ゲーム『SEKIRO』も例に漏れず難しい。
いや、「難しい」なんてものじゃない。過酷だ。フロム史上最高難易度とすら思える激しい剣戟、低い体力、圧倒的なボスの数々。
『ダークソウル』は難しいゲームのはずだが、『SEKIRO』の前ではフレンドリーなウォーキングシミュレーターのようなものだ。当然ながら『SEKIRO』に難易度選択なんて存在しない(正確には、ゲーム内のイベントで通常より更に難しいモードを選択可能)。
僕はあえて新しい戦闘システムについての事前情報を集めずに『SEKIRO』にチャレンジしてみたが(デモ版の破戒僧の動画も見ないようにしていた)、途中で「いくらフロムとはいえこれは難しすぎるんじゃないか」「なにか重要なアイテムを見逃しているのか?」と思い、調べた。そして知った。自分は特に何も見逃しておらず、むしろ簡単なルートで進行していたということを。
そのあとに僕がツイッターで検索したのはゲームの攻略情報ではない。「SEKIRO 難しい」「SEKIRO トロフィー取得率」「SEKIRO ガスコイン」。その検索結果には心が折れそうな孤独な忍たちがいた。「自分は思っていたほどアクションゲームが上手くなかった」という事実にゲーマーとしてのプライドを打ち砕かれ、誰かと痛みを共有したかったのだ。
そんな僕も最終的には『SEKIRO』を大好きになれたのだが、まず第一に「難しい」という話をしなければこれから『SEKIRO』をプレイする人たちに対してフェアではない。クリアするまでの死亡回数が100回で済んだらあなたは相当上手いプレイヤーだろう。
初心者のための『SEKIRO』序盤攻略
「難しい」を連呼して未経験者の不安を煽るのもそれはそれでレビュアーとして無責任かもしれない。そこで、自分が『SEKIRO』をプレイしながら学んだ序盤で役立つ9個のヒントをまとめてみた。
- 死なず半兵衛との修練は必ずこなすこと
- コントローラーのボタン設定は自由に変更できる
- スタミナは無限。ガードはそうそう割られない
- 消耗品は惜しまず使おう
- 積極的に忍具を活用しよう
- 積極的に切って弾け。敵に回復の時間を与えるな
- レベリングはできないが、スキルポイント稼ぎはできる
- 竜咳のことは気にするな。何とかなる
- 死ぬことは気にするな。どれだけ慎重にプレイしても必ず死ぬ。たくさん死ぬ
強敵に努力と技術で勝利する快感は、選ばれたエリートゲーマーだけのものではない。「中ボス相手に忍具を使い果たし慌てて鬼仏に逃げて形代を買い込む」「周囲の雑魚敵を一人一人釣りだして倒してボスにはステルスから忍殺を決めてダッシュでNPCに助けを求める」なんてファイトスタイルもまた立派な忍者の姿だ。
どんなプレイヤーにもこの試練に挑む資格はある。卑怯とは言うまいな。
『SEKIRO』が難しい理由
それにしてもなぜ『SEKIRO』はこんなに難しいのか。理由の一つにレベルアップの概念がないという点がある。『ダークソウル』や『ブラッドボーン』のボスももちろん手強いが、レベルを上げて徹底的に装備を強化することでかなり難易度を下げられる。
一方『SEKIRO』は主人公のステータスを強化するためにはボスを倒さなくてはならず、そしてそのボスを倒すのがものすごく難しい。スキルポイント稼ぎはできるが、新しいスキルを取得したからといって劇的に攻撃力がアップするわけではない。
二つ目は、オンラインマルチプレイが存在しないという点。これまで白霊頼りでなんとか強敵を突破してきたゲーマーは『SEKIRO』で真のアクションスキルを試されることになる。
ちなみに同じく戦国死にゲーの傑作『仁王』(コーエーテクモ)は「雑にプレイすると難しいがオンラインや壊れスキルを駆使するとめちゃくちゃ簡単になる」という極端なバランスで、ズルして攻略する感覚が楽しかった。
『SEKIRO』はそんなヌルい楽しみ方を認めない。『SEKIRO』が求めるのは「学習し、工夫し、困難を克服する」ことであり、報酬は巨大な達成感だ。これまで多様なゲームの楽しみ方を提供してきたフロムソフトにしては驚くほど狭量なゲームだと言える。まるで技量特化ビルドを強制されているようにも感じてしまう。
しかし戦い方を限定する代わりにかつてないほど独創的でスピーディなバトルシステムが生まれたならそれほど悪いことではない。『ダークソウル』の戦闘が「ローリングのタイミングを学ぶゲーム」なら、『SEKIRO』の戦闘は「敵の攻撃に合わせた攻撃(弾き)、ジャンプ、ステップのタイミングを学ぶゲーム」だ。プレイスタイルの自由度は減ったが、敵と接近したときに取れる選択肢はむしろ増えた。そしてそれが難易度に繋がってもいる。
『ダークソウル』よりはるかにわかりやすくなったストーリー
強化されたのはバトルシステムだけではない。いくつかの演出やイベントボス戦は『ゴッド・オブ・ウォー』を思わせるほど派手で、『ダークソウル』では絶対にありえなかったようなドラマチックなカットシーンもある。
物語は『ゴッド・オブ・ウォー』並に感動的とは言わないがこれまでのフロム作品より直接的でわかりやすく、世界に根差した残酷な運命に翻弄される人々は印象深い。
「戦国時代」という実際の歴史をモデルにしたせいで世界観が広がらないのではないか、と心配している人は安心して欲しい。『SEKIRO』はあくまでフロム流に解釈された架空の日本で、『仁王』のように実在の武将と戦ったりはしない。葦名はヤーナムさえ霞む恐るべき魔都なのだ。
美しい立体マップを隠密行動で踏破する快感
『SEKIRO』ならではのシステムといえば、ステルス(隠密)を忘れてはならない。多くのミニボスの体力1ゲージ分は頭上からの忍殺で奪えるので、攻略のために隠密は絶対に必要だ。
一般的なステルスゲームと比べて『SEKIRO』がなにか特別凄いことをやっているわけではない。隠れた主人公を探す敵のAIは賢くないし、目の前に顔を出しても気付かれないことすらある。
それでも相互に繋がる美しいマップデザインのおかげでただ屋根を飛び移るだけの行為が面白い。立体的なマップを敵に見つからないようスルスルと進んでいく快感は、その敵の攻撃を食らったらあっさり死んでしまうという事実と相まってなかなかのものだ。
とにかく探索は滑らかで、もしフロムの次回作から鉤縄移動が消えたら満足できるのだろうかと不安になるが、まあフロムならうまくやるだろう。
『SEKIRO』総評
『SEKIRO』は世界観、バトル、ゲームシステムが完璧に融合した宮崎英高ディレクターらしい傑作だ。
表面的に『SEKIRO』と似ているゲームはいくつも存在する。『ダークソウル』『ブラッドボーン』『仁王』『天誅』。『SEKIRO』はその全てと一線を画す完全にオリジナルの作品で、あらゆる戦闘が新鮮だ。新鮮すぎるが故に適応するまでの過酷さに投げ出したくなるかもしれないが、これほど自分自身の成長を実感できるゲームは他にない。
攻撃、弾き、ガード、ダッシュ、ジャンプ、見切り、忍具、その他全てを駆使してようやく立ち向かえるボスたち。誇張ではなく本当にあらゆる技術を使わないと勝てない。弾きさえできれば勝てるとか回避さえできれば勝てるとか、そういう次元の戦いではないのだ。
はっきり言えるのは、現代でこんな作品を世に出せるのはフロム・ソフトウェアだけだ。その意味でどれほどシステムやストーリーが変わろうと「フロムらしさ」は1ミリもぶれていない。
ないものねだりが一つある。宮崎英高の「世界観とシステムを調和させる」スタイルは本当に素晴らしいとは思うが、それでも『SEKIRO』で他のプレイヤーのメッセージや血痕を見てみたかった。
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